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10. 新しいアイデアを思いつくコツ

私は人間の脳というか情報処理中枢は深底の鍋だと思っています。その鍋の中に、たくさんの具材(情報や知識など)を入れて、火にかけます。この火力が主体的行動力や論理的思考力です。火にかける時間が、そのまま取り組んだ時間です。時間が経つにつれ、具材から水分や様々な旨味が出てきて、それが混ざります。ただ、これだけでは新しいアイデアは出てきません。情報や知識が整理され、解釈されただけです。さらに水分や調味料(他者からもたらされる追加情報など)を適当な分量で加え、加熱し、じっくり待ちます。美味しそうなスープになってきましたが、これも新しいアイデアではありません。深底なので滅多に吹きこぼれませんが、時々沸騰してスープが飛び散ります。この飛び散った雫が新しいアイデアです。

新しいアイデアを思いつくコツはもうわかりましたね。鍋を浅いものに交換すると思った君はなかなか見所があります。しかしそれでは奥深いアイデアは生まれないでしょう。君たちの鍋の中には様々な具材がすでに詰め込まれていますがまだ足りません。残念ながら火力も全然足りません。調味料もありきたりのものしか入っていません。研究とはアイデア勝負です。勝負できるようになるためには何が必要か自ずとわかってきたのではないかと思います。

​プロ研究者の中には、アイデアが分単位でどんどんと溢れてくるような人がいます。きっとその人の鍋には溢れんばかりの具材が入り、尋常ではない火力で加熱され、吹きこぼれているのでしょう。しかしその人も最初からそうだった訳ではありません。最初は君たちと同じです。この鍋には穴は空いていません。入れれば入れるだけ溜まります。

アウトプット量がインプット量を超えることは絶対にありません。アウトプット(新しいアイデア)を増やしたければ、インプット量を増やすしかありません。インプットとは研究活動に限りません。人生経験そのもので非常に多岐にわたります。

もう一つ重要な点は、新しいアイデアは大抵は陳腐です。最初から素晴らしいアイデアは出てきませんし、狙って出るようなものでもありません。だからプロ研究者はただひたすらたくさんの新しいアイデアを出します。その中から良いものを選別するのです。アイデアとは思いついたその時点では基本的にどれも陳腐です。それを選別し、磨き上げてこそ、アイデアはその輝きを発するようになります。

新しいアイデアはいつ思いつくかわかりません。私の場合は、お風呂、通勤途中(片道徒歩20分)、出張の移動中、気晴らしの散歩中、寝る直前、会議中、などです。アイデアが浮かびやすい場所として、4つのBが有名です。Bar, Bathroom, Bus, Bedです。知り合いは5つ目にBoring meeting(退屈な会議)を挙げたりします。思いついたらいつでもメモできるように、私のカバンには常にRHODIA No.13のメモ帳が入っています。すぐに書き留めて、あとでじっくり練り直します。スマホはあえて使っていません1。大体は陳腐なのですぐストックしますが、いくつかはブラッシュアップを経て研究テーマになり、論文発表に繋がりました。

かの天才科学者アルバート・アインシュタインは、「博士と、私たちのようなその他大勢との違いは何ですか」と問われた際、「たとえば、干し草の山から針を探さなくてはならないとします。あなた方はたぶん、針が1本見つかるまで探すでしょう。私は、針が全部、見つかるまで探し続けると思います」と答えています1。初めの数個のアイデアはその他大勢でも思いつきます。その先に独自のアイデアがあるのです。

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